『遠足』01_02

駅前
  「あそこのNOVAがそうなの?」
  「あ、いや、チガウんっすよ。行徳駅前じゃなくて、西船橋のNOVAみたいっす。やっぱ西船橋駅前でナンパしたことが重要で、英会話うんぬんはたまたまなんじゃないっすかね」
  「なるほど。駅をはさんですぐ向い側が例の『ドトール』だし、彼女も不審に思っただろうね」
   07年6月某日。市川市の最寄り駅、地下鉄東西線『行徳』駅前。事件発生から約2ヶ月経った初夏の或る日、なんだか呑気な気分で我々はその街を訪れた。
   街のそこかしこの歩道は、横長のコンクリートの敷石でできていて、上を歩くと「カコカコ」と音がする。これはドブよりももう少し広い用水路に蓋をして、その上を歩道にしたものだ。私が育った街もそうだった。昔はこのような水路が街中にはり巡らされていた。それにいつか蓋がされ歩道となり、やがてアスファルトで固められ路地になっていった。
  「あら、イイ感じの公園だね」
  「なんか和みますねぇ」
   事件現場のマンションに向かう途中に『駅前公園』という200平方メートルほどの正方形の公園がある。事件を起こした彼は千葉大学園芸学部に通い、「公園を造りたい」とデザインを専攻。卒業論文は『ディズニーランドにある植栽について』だったそうです。そうすると彼が暮していた周辺の公園は、彼にとって特別なものがあるか、或る程度気にはしていただろうと、少しだけ寄り道。
   造りは派手ではないのだけれど、丁寧に剪定された植込みには花が咲き乱れ、人目を惹くものがある。奥には洒落た感じの噴水。全体の3分の1ぐらいが小さな線路で囲まれた児童公園になっている。たぶん何かのイベントがあると、この線路にお猿の電車のようなミニ鉄道が走るのでしょう。そして、街ではガーデニングというか家庭菜園が流行っているのか、そこかしこの家々やマンションの窓辺に多くの鉢植えが飾られています。
  「来る前にイメージしてたのとずいぶん違うね。もっと無機質なマンションが立ち並んでて…」
  「ええ、荒涼たる感じだと思ってました。たしかに道路は直線だし、マンションいっぱいあるけど、家庭菜園が盛んっすねぇ」
  「公園とか道端の植込みもキレイだよね。あと、街に見せかけの造りモノっぽさが無いというか…。ブリコラージュていうか器用仕事っぽいっていうか、街の人が毎日手入れしてるからキレイになってる、みたいな。道路は碁盤の目だしマンション四角いのに、街全体の印象は庭園っぽい。花や緑が眩しいよね。なんか好感もてるなぁ、この街」
  「皮肉な感じしますよね、『公園造りたい』なんつってた奴が住むのに最高のロケーションだろうに…人、殺しちゃって」
  「なんか彼って、スサんだ奴って勝手にイメージしてたけど、実は理想の場所に住んでて、頭パラダイスな脳天気野郎っぽそうな気がしてきた」
  「ああ、結構ちょうしイイ奴だった、って話もあるんっすよ」

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