宝街
現場の都営住宅は南口の風俗街から境川沿いの遊歩道をしばらく歩くと見えて来ます。やはり、というか拍子抜けするぐらいポカンとのどかな風景。目前に広がる公園は青々とした芝生がなだらかな丘を作り、その奥にこざっぱりした感じの都営住宅。それが現場となった建物。公園には申し訳程度に黄色いテープが貼られた場所が残っている。
「現場のこの部屋に貼られてるベニヤって、さっきのちょんの間を思い出すよね。結局は同じにされちゃった」
「そおっすね。しっかしこの扉につづく警官隊の足跡、スゴイっすね。特殊な装備だからっすかね、コンクリートにこんなに深く足跡残るなんて」
「ね、なんかリアル。それに重装備で華々しく『突入!』ってやっても、そうとう前から彼は虫の息で『アリャ?』みたいに拍子抜けするグダグダな結末で」
「それに拳銃自殺ミスってて頭貫通に眼球破裂っていうのがさらにリアルっす」
「ま、それも『座頭市の誕生秘話』っていうタイプの話にはならないし」
「なるほど。でも、こうやって実際に訪れると、事件現場ってホント、いいっすね」
「って、アンタ、水野晴郎かい」
この事件を物語りに、例えば映画にするとしたらどうなるだろう。70年代のアメリカン・ニューシネマ的なテイストだろうか、それとも初期の大友克洋の『ショート・ピース』あたりに出てきそうなストーリーでしょうか。そういえば町田駅前の繁華街はアニメ映画『鉄コン筋クリート』の舞台となった架空の街「宝街」にどことなく似ているかもしれない。あれも、滅んでゆく人々や街の物語り。そこに希望として存在する子供達。けれどもこの街にはシロやクロという無邪気に遊ぶ主人公はいない。物語りのプロット(筋書)や道具立ては揃っているけれど、華々しいエピソードやカタルシスの感じられる出来事になる直前でことごとく失敗し、ドライな現実だけ残る。寸止めで終わる感覚。
「そう言えば警官隊は『SIT』っすね」
「シット(クソ=SHIT)ね…。警察だけに『エッチ』が抜けてると。ま、法の番犬として『足跡』っていうマーキングもちゃんと残してる」
「それっ、落語っぽいオチっすよ」
「あっ」
(遠足02_Fin)
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