対話
公園はそれほど物騒な感じも無く、まだポツリポツリとベンチに人が座っている。公園の一画で、わりと大きな話し声がします。
「だからね、資本家っていうのは、そういうふうに我々労働者を搾取してゆくんだ」
缶ビール片手に話しているのは、初老のこざっぱりとしたオジサンで、聞いているのは昼間も見かけたホームレス風の1人のよう。
「ちょっと話を聞いてみようか」
「ヤメましょうよ、カヲルさん。危ないっすよ」
「だいじょうぶ」
尻込みする和都さんを無視して、彼らに話しかけます。恐いことなどない。夜の公園でなごみつつ左翼系の労働闘争もろもろについて語っているような人は、基本的に対話主義のはず。
「すいません、ちょっとお聞きしたいんですが、わたしたち5月にあった襲撃事件の取材をしてまして、昼間の公園も見たんですけど、なんだかとてもノドカな感じで、物騒な事件が起こるような場所に見えなかったんですが…」
「ああ、それはあの事件が起きたせいで、そうなったんだよ。警察もよく巡回するようになったし」と、初老のオジサン。
「じゃあ前はもっと治安が悪かったんですね。たしか11年前にも同様の事件が起きてますよね」
「そうダヨ。アッチのスベリ台のある、暗がりの公園ダヨ。アソコで殺されたんダ。こないだのは、アソコの一番端ッコのベンチで寝てたのがヤラレたんダ。アイツら、ズル賢いヨ。自分達が逃げやすいよう端ッコのヤツを狙ってんダヨ」と、ホームレス風の男が続けます。
「そうそう、あいつら恐くて公園の中までは来れないんだ。しかしあれだよ、最近の子供は人の心がわからないというか、色々な軋轢はあるにせよ、それぞれの自由な生き方を認めて包み込むっていう、下町の包容力がわからなくなってしまった。今の子供は自分達が理解できない者にはいきなり暴力だ」
「自由な下町気風っていえば、一番街のほうに朝からお酒を出す店とかありますね」
「昔から大日本印刷とか昼夜問わず操業する企業が多い土地でね。夜勤明けの従業員相手に朝から酒をふるまう店が多くなったんだよ。ま、ああいう店もまた労働者から金をうまく搾取する商売だが、そうたちが悪いってわけじゃあない。店も客が泥酔するほど酒は出さんしな」
「お店とかもよさそうですが、こうやって夜の公園で涼みながら飲むのもおいしそうですね」
「ああ、旨いよ」と、オジサンは微笑んだ。
最後に、「もしかしたら少年達は羨ましかったのかもしれませんね、昼間の公園で自由に集まってくつろぐオジサン達の姿を見てて」と、自説を披露したら、初老のオジサンは「なるほど、そうか…、そうかもしれないな」としきりにうなずき、最後にこう言いました。
「我々はお互いをよく知らずに、お互いを恐れて、まったく交わらないで断絶しているだけかもしれんのだな」と。
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