『遠足』05_02

境界
   正直に白状すると、私にとって渋谷という街は居心地の悪い所だ。渋谷のことを考えると、なんだか気後れする。私はそれほど保守的な人間ではないつもりだけれど、この街の人々を眺めていると「なぜ皆はそんなにすぐに新しいモノを追いかけ、それを楽しめるのだろう?」と、つい不粋なことを考えてしまう。
   07年10月某日。我々は最初の遺体発見現場の撮影を終えて、新宿から山手通りを渋谷方面にタクシーで向います。多少浮かない気分だったけれど、殺害現場となったマンションのある富ヶ谷は、一応渋谷区とはいえ、また少し違った風情。恵比須、広尾、代官山などといったハイソサエティーな土地柄より、むしろ中野や世田谷に近い空気感。
  「すぐそこが代々木公園だからアレだけど、『渋谷』って言い切るには微妙な…」
  「来る方向によって違って見えるっすよね。渋谷側から井の頭通りを進んで富ヶ谷目指すと渋谷圏に見えて、新宿側から山手通りっていう道順だと中野辺りを引きずってるような」
  「しっかし山手通りと井の頭通りの交差点から急に似たようなマンションがボンボン建ってるね」
  「流行りって、オソロシイっすねぇ」
  「現場マンションもモロにその造りだし」
   狭い土地にペンシル型の高層階。スクエアな直線形。打ち放しコンクリートの骨格にチタンの外壁パネルとスモークガラスを張ったベランダ。富ヶ谷の交差点辺りはそれが最新流行のスタイル。周辺を散策すると、歩道橋の手摺に「セレブ(人殺し)」という言葉と共に電話番号がマジックで書かれている。新宿の現場にも同様の落書きが多数残されていた。犯人が女性ということもあるのでしょう、吊るし上げのからめ手も執拗だ。最新流行の生活スタイルの脇に貼られた古い価値観のオマジナイでしょうか。

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