『遠足』05_06
ユーモア
「さっきの『流行ゲーム』っていう関係性と違って、この夫妻の場合『ゼノンのパラドックス』なのかな」
「ん? なんすかそれ」
「アキレスと亀が徒競走をする。アキレスが亀より速いのは明らかだから、ハンデをつけて亀を先行させてスタートさせる。けれどもアキレスは亀に決して追いつくことはない」
「ああ、知ってます。アキレスはさっきまで亀がいた地点に着いても、もう亀は先に進んでいて、また次の地点にアキレスは進むけど、亀は若干進んでる。と、いくらでも考えられるってヤツっすね」
「現実はアキレスは亀に追いつくけどね。『飛ぶ矢は飛ばない』とか。まあ運動を思弁的に証明することの不可能性っていうか、この場合は、或る先行する概念には絶対に追いつけない、っていう意味で」
「なんかちょっと難しいっすね」
「例えば流行に追いつこうとすると永遠に追いつけないっていう、さっきの話とか。『流行ゲーム』って『価値の転倒ゲーム』でもあるから、アイロニーやユーモアの感覚をそこに含むんだけど、『アキレスと亀』と似た意味での上昇志向って悲劇になりやすい。そのうえダンナの暴力っていう圧力が加わると、自分達を客観的に見て『笑う』っていうユーモアを完全になくしちゃう」
「なるほど。ダンナのDVがなかったら、こんな事件にもなっていなかったし、ちょっと嫌味なオモロイ夫婦で済んでたかもっすね…」
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