『遠足』08_04

ヒョットコ
   数年前、友人宅に数人で集まって井戸端会議をしていた時に、その中の一人がおもむろに「ねえ、自殺って考えたことある?」と、聞いてきました。ちょっと唐突だけど、その時は自然にお互いの経験談が始まりました。みんな「フフフ」となんだか照れくさいような感じで、おずおずとですが明るく呑気な語らい。不思議だけど偶然にもその時集まっていた皆は、自殺という事柄について自分の中でおり合いがついていたのでしょう。
   私の場合は或る日、なぜだか宇宙の無限さとか永遠についてチラチラと考えてしまい、深みにドボンでパニックに。「ワタシの存在には意味がないっ!」とマンションのベランダから飛び降りてしまいそうになり、その一日は小さく丸まって固まっていた。
   そんな話を友人にしたら「ハハハ、アンタらしいねぇ、それ」と、言われた。その友人は「アタシは、前に不倫してた時にチョッと、ナイフでねぇ…。へへへ」と照れくさそうに語り、微笑んでいました。
  「たぶんその前後あたりからなんだよねぇ、こ難しい哲学書を色々読み漁るようになっちゃったの」
  「ええ〜? そんなの読んだら逆効果じゃないっすかぁ」
  「パニック防御策というか、普段からそういう自分のそばにある深淵とか奈落の底みたいなのを、よく見て慣れておこうと思って」
  「それでなんか『真理』みたいなモノって見つかったっすか?」
  「うううん。本読んだだけで都合よくそんな大それたモノ見つかったり、安心するわけないよ。そもそもワタシが好きな哲学者って投身自殺してるから、真理もヘッタクレもない(笑)。ただ、怖がっていたモノというか深さについて距離感がつかめるだけ。でも、実際にパニックになりそうな予感がしてる時はむしろヒョットコ言葉をアタマの中で唱えると、フゥ〜って落ち着いてきたりする」
  「なんすか『ヒョットコ言葉』って」
  「『ナダコンマレヌレーヌ』とか『イーサクリーシオ』とかかな」
  「ん? それどこの言葉っすか?」
  「ツレゲオ国のホア語」
  「なんなんっすかそれぇ」
  「フフフ。でも、自殺の種類って色々あるけど、もっとやる気を無くすような言い方にするといいかも。飛び降りは『脳みそバーン』とか『万有引力フェチ』で、リストカットは『手首が生理』。首吊りは『携帯ストラップゴッコ』、練炭なら『スモーク人間』、電車飛び込みは『ミンチなり隊』と、言い換える」
  「そんな、身も蓋もない…」

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