『遠足』09_07

景色
   川口駅に着いて、落ち着く場所を捜していると、駅前の高架広場のエスカレーター付近に警察官が立っている。その足下に毛布に包まれた人影。ホームレスの人が行倒れたのだろうか。和都さんは目蓋が微かに動いたと言っていたが、あの蝋人形みたいに真っ白な肌色はたぶん死んでいると思う。まるで島流しにあった俊寛みたい。この寒さで絶命してしまったのでしょう。撮影しようとデジタルカメラを向けると警察官に注意された。
  「なんか、最後のさいごでやっぱ川口は川口だったって感じっすね」
  「結局は皆死ぬっていう、暗喩かな、これ」
  「やめてくださいよ、変なこと言うの」
   我々はとりあえず駅ビルにあるコーヒーショップに腰を落ち着けて、さてこれから何を話そうか。
  「ふぅ、色々考えてたら、どこからか名探偵が現れて、いきなり『犯人はスフィンクスだ!』って言われたみたい」
  「スフィンクスってそれはまた」
  「変な例えだけど。なんだか謎かけっぽい意味がありそうに見えたりするのに、どうにも答えがみえてこない感じ。でも『それは人間だ』てな答えじゃしょうがないし…。なんだろう? ワタシはこの街に先入観あるから色々言ってしまうけど、あらためて考えると事件現場周辺って、妙に印象が薄くない? なんだかのっぺりしすぎてる風景っていうか」
  「たしかに平凡すぎる風景なんで、すぐ忘れちゃいそうな感じっすね。さっきの源左衛門新田辺りと比べちゃうと」
  「ポカンとしすぎてて何も思い浮かばない風景なんだよね。あの風景を眺めていると、まるで何かがそこだけ破けてしまって、剥き出しになってる荒野のようで」
   街にあった大きな能力が、なにかのきっかけで失われてしまったとする。そこで或る人は、思うままにならない能力を自由に発散することで、他人の小さな自由を強引に奪う。ないものを求めることと、在ったものがなくなること。「奪う自由」は思いつくままに数多く考えられるけれど「奪われた自由」は唯ひとつ。多勢に無勢。けれども、奪った自由をストックしておくことはできないので、ここでは自由がどんどんと消滅してゆきます。
   わたしたちは建物や道路などで網の目のように土地を覆う。そしてそれと同時に、人々の生活もしくはなにか目に見えない膜のようなもので、その土地を覆っている。けれどもここではそれが破けてしまっている。そして、そんな風景の中で「!」や「?」やさまざまな句読点達が吹き抜ける風に煽られ、散り散りになっています。

(遠足09_Fin)

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